2011年8月28日日曜日

IAISの「ALMイシューペーパー」を読む(17)

IAIS(保険監督者国際機構)作成の「ALMイシューペーパー」(「資産負債管理に関するイシューペーパー」(2006))を読む。<パラグラフ68からパラグラフ78>

パラグラフ68
再保険
再保険は他の保険会社にリスクを移転する手法であり、それ故に資産負債管理リスクを軽減するために使うことができる。再保険は主として負債リスクを管理するために使われるが、一部の資産負債管理リスクを解消するためにも使うことができる。例えば、株式連動負債とマッチングさせるために資産を保有する替わりに、保険会社が株式連動の再保険契約を締結すること(訳注22)が挙げられる。
(訳注22)具体的には、例えば変額年金における最低保証部分のリスクを自社でヘッジする代わりに再保険会社に移転することを意味していると考えられる。
このセクションにおいて再保険は、主に市場リスク関連(ヘッジの補完的な役割)としてのALMへの利用が説明されている。
むしろ保険引受リスク・流動性リスクの面で重要度が高い気もするが、その辺りの記述は殆ど無い。
また、再保険料等の授受が資産側に与える影響についても記述はない。これは再保険キャッシュフローを負債側のキャッシュフローと捉え、原契約のキャッシュフローから控除する形で考えているのかもしれない。


パラグラフ69
資産負債管理との関連で、再保険は以下の目的でも締結することができる。
● 保険会社の予測キャッシュフロー特性の変動性の圧縮、切捨て、平滑化により、残存キャッシュフローに対する資産のより良いマッチングの実現
● 投資リスクの移転
● 再保険会社との専門的知識の共有
● 証券化を通じた資本市場へのリスクの移転
ここで"投資リスク"というのが何を指しているのかがはっきりとしない。たしかにIAIS用語集にも"Investment risks"という項目はあるのだが、
Investment risks: the various kinds of risk which are directly or indirectly associated with the insurers’ investment management. They concern the performance, returns, liquidity and structure of an insurer’s investments. Such risks can have a substantial impact on the asset side of the balance sheet and the company’s overall liquidity, and potentially can lead to the company being over indebted or insolvent. The investment risks include: market risk, credit risk, liquidity risk, operational risk.
ということで・・・。
「市場リスクの移転」という表現ではなにか不都合があるのだろうか。

最後の証券化については、CATボンドのことだとすると、ALMとの関連が不明瞭だ。
それとも、変額年金の最低保証部分を証券化できるようなスキームが海外にはある?

負債側のキャッシュフロー特性を資産側に合わせ変えることができるという特徴が再保険にはある、という指摘は面白いと思った。


パラグラフ70
再保険はリスクを移転する一方で、カウンターパーティリスク、集中リスクを派生させる。カウンターパーティリスクは、再保険会社が保険会社に対する義務を履行できない、もしくは再保険会社の信用力が悪化するという状況において生じる。再保険会社のデフォルトをもたらす要因は、保険会社自身を財務上の困難に陥らせる可能性がある要因と高い相関があるかもしれない。保険会社は再保険会社の信用力を継続的にモニタリングする必要がある。再保険会社が他国を本拠としている場合や元受保険会社と比べて規制が緩い場合には、特にモニタリングが必要となる。
カウンターパーティリスクに比べると小さな問題なのだろうが、ヘッジと同様に、会計上の取り扱いの相違や、当局規制による追加資本の可能性などもリスクとしてはあると思う。
また、再保険によるリスク移転の有効性は問題にならないのだろうか。

ともあれ、再保険のリスクといえばカウンターパーティリスク、というのは、ALMをテーマにしなくても異論のないところだろう。

ところでこのリスクは、ALMの対象とするリスク「市場リスク・保険引受リスク・流動性リスク」のうち、どれに入るのだろうか。


パラグラフ71
カウンターパーティリスクは再保険契約に担保要件や格付けトリガー条項を設定することによって減少させることが可能である。この条項によって、例えば再保険会社は、外部信用格付けが特定の水準以下に下がると、担保の差出しを要求される。これは再保険会社の流動性に重大な枯渇状態をもたらすかもしれないし、資産負債管理のプロセスにおいて積極的な管理を必要とするかもしれない。
最後の文は受再会社のALMのことを言っているのか?

カウンターパーティリスクの対処については、継続的なモニタリングと調査・評価、最終的には担保金、ということである。
再保険会社のデフォルトに対する保険、とかないのだろうか。


パラグラフ72
再保険は、集中リスクにつながる可能性もある。例えば、
● 分散した資産ポートフォリオが単一の再保険資産に置き換えられる(訳注23)。(再保険会社自身が保有する資産ポートフォリオの分散とは無関係である)
● 同一グループ内の保険会社間での再保険によって、グループ内部のリスク水準が分かりにくくなる。
● 保険会社が、再保険自体から発生するエクスポージャー以外に、特定の再保険会社又はそのグループ企業に対するエクスポージャーを持つかもしれない。
(訳注23)分散した資産ポートフォリオが単一の再保険資産に置き換えられることによる集中リスクとは、単一の再保険会社を利用することで、信用リスクが集中することを意味していると考えられる。
集中リスクも「市場リスク・保険引受リスク・流動性リスク」のどれに入るのか分からない。
そもそもこれは、カウンターパーティリスクとは別物なのだろうか。受再会社のデフォルトの可能性を高めるものとしか思えないのだが。


パラグラフ73
資産負債セグメントにわたるマッチング
資産負債管理に対する追加的アプローチの1つは、負債における個々の同質なセグメントを認識し、各セグメントに適切にマッチする投資手段を手に入れることである。これは各負債セグメントが独立した事業である場合には適切であるだろう。しかしながら、この戦略は、全保険契約を一体管理することから得られる収益機会やリスク管理を無視することになるため、次善の資産負債管理かもしれない。
前提として、セグメントごとの区分経理が必要となるため、その点においても技術的な検討事項がいくつか出てくる。
例えば事業費等の配賦、資産の持分管理、全社区分の取扱、システム整備など。


パラグラフ74
保険契約者を保護するために、資産と負債を隔離することが適切な保険事業、あるいは負債を対応する資産に密接にマッチングさせることが適切な保険事業がある。例えば、ⅰ)損害保険事業は通常、生命保険事業から隔離される、ⅱ)有配当契約(訳注24)における収益を測定するために、資産の分離勘定が使われる、ⅲ)株式連動型、または指数連動型の給付は、対応する資産と密接にマッチングが行われる、ⅳ)年金のキャッシュ・アウト・フローは確定利付商品のキャッシュ・イン・フローとマッチングが行われる。
(訳注24)ここでは欧州におけるwith-profit契約を対象として記述されており、日本における有配当契約とは必ずしもその取扱いが同じではない。
これは区分経理を導入する理由であって、ALM手法の話からは少しずれている気もするが・・・。


パラグラフ75
資産負債管理は保険会社の内部で契約セグメントごとに個々に運営される場合があるが、このことは、異なる資産および負債セグメントを一元的に管理することから得られる、規模、ヘッジ、分散投資、再保険のメリットが無視されているか、あまり関心が払われていないことを意味する場合がある。このことは、資産および負債が1つの企業グループ内の複数の運営チームによって管理される場合にも、あてはまるだろう。保険会社が、ある企業グループの一部である場合、法的組織体同士の資金移動の制限を前提に、グループを通じて資産負債管理を調和させること、または一元的機能として資産負債管理を適用することからメリットが得られることがある。これはおそらく、複数の運営チームの業績を区別するために、仮想セグメントの資産ポートフォリオを用いることで達成されるかもしれない。資産負債管理に対する明確性に欠くアプローチは、資産負債の調和が不十分になるというオペレーショナルリスクを招くであろう。
ALMを考える単位は、会社合計だけでなく、より狭い範囲(区分経理)あるいはより広い範囲(グループ全体や、グループ内の複数の運営チーム)もありうるという指摘である。

これは、実際に資産が分別管理されるか、あるいは運用収益がどのように配当に還元されるかなどとは第一義的には関係のない、管理上の捉え方だけの問題だと理解していいのだと思う。
例えば、有配当の養老保険を中心とした商品区分があり、その中で特定のチャネルが極端にデュレーションの短い契約を大量に獲得しているとする。そのチャネルからの契約を新たな商品区分として設定してしまえば話は別だろうが、そうでない場合、基本的にはその特定チャネルからの契約に対しても、配当基準利回りは他の契約と同様の利回りが適用されるはずである。しかし、ALM上はその特定チャネルのみ抜き出して、個別の対応を行うことも可能である。


パラグラフ76
長いデュレーションの負債
PL保険や終身保険および年金など、一部の負債は特に長いデュレーションを持つことがある(訳注25)。この場合、将来の正味負債キャッシュフローの現在価値が特に金利の変化に対して感応的であるという点において、重大な再投資リスクがあるだろう。
(訳注25)PL保険(製造物賠償責任保険)とは、製造物の欠陥等を原因として、他人に与えた損害に対する賠償金、弁護士・訴訟費用などを支払う損害保険商品。訴訟が長引くことによって、保険事故発生から保険金支払までの年数が長くなることが一般的であり、この意味において負債(支払備金)は長期のデュレーションとなると考えられる。
損保数理のテキストでも、PL保険のデュレーションは長いというようなことが書いてあった気がする。
損保の文脈の中では、特に長い方に入るのかもしれないが、終身保険などと比べられるくらいに長いのだろうか。全く知らないが、デュレーション30年、50年というのは、いくら訴訟が長引いても一般的でない気がする。

再投資リスクや、デュレーションがマッチした資産がないなどの、長いデュレーションの負債特有の話はPL保険では起こらないのかと思っているのだけれど、そんなこともないのだろうか。


パラグラフ77
世界中の多くの市場には、長期のデュレーションの負債を支える長期の固定利付資産が無い。加えて、利用可能な資産のデュレーションにも、負債との間でギャップがある場合がある。一部の種類の負債に関して、このことは最も発達した市場においてさえも問題となりうる。これに対処する方法として、以下のようなものが考えられる。
● 資産の感応度を、起こりうる負債価値の変動に合わせるためにデリバティブを用いる。
● 保険契約者とリスクを共有する、もしくは金融的な保証要素が少ない商品を設計する
大雑把に言えば、資産側で工夫をする(1つ目の例)か、負債側で工夫をする(2つ目の例)かという2つである。

資産側ではできることは少なく、デリバティブでがんばるかトレーディングテクニックでがんばるかぐらいしか私は聞いたことがない。(だからこそよく課題として取り上げられるのだろうが。)

逆に、負債側に関しては保険会社は胴元の立場なのだから、かなり自由度の高いことができる。
2つ目の例は、つまり、現状存在する資産運用手法でサポート可能な負債キャッシュフローになるような商品設計にすべきである、というそもそも論である。

しかし、そもそもの話をしてしまうなら、30年先のマーケット環境の不確かさよりも、30年先の負債側キャッシュフロー予測の不確かさの方が随分重大な気がしている。


パラグラフ78
長期負債にマッチングさせることの難しさのため、テイル負債に対応する長期の資産負債管理部分を、より短期間の資産負債からなる資産負債管理部分から分離することは、保険会社にとって適当かもしれない。これは、長期的なリスクに関して十分な焦点が当てられ続けること、および遠い将来になってはじめて顕在化するであろう問題(例えば年金額保証に伴う問題)を予期するために、十分に早期に対策を講じることを確実にするために役立ち得る。確実に資産負債管理リスクが把握され、適切に管理されるよう、テイルの長い負債は、特に焦点を当てる形で監督の対象とするべきである。(訳注26)
(訳注26)ここでは債券でのマッチングによる資産負債管理の限界と長期の資産負債管理の重要性が示されている。特に平準払い保険負債の将来キャッシュフローは、将来の保険料の払い込みによって賄われるものであるため、特に長期になるほど現時点の保有資産ではカバーしにくくなる性格のものである。このためパラグラフ77にあるように長期ゾーンでの金利デリバティブの利用は本来的な対処方法であるともいえる。
デュレーションマッチング出来る部分(している部分)とそうでない部分を分離するという手法であるが、裏を返せば、「超長期部分を他と同じレベルでALMするのは無理だと思う」というIAISの見解のようにも読める。



以上、ひと通り「ALMイシューペーパー」を読んでみた。
ここが微妙、そこが微妙ばかり書いてしまった気がするが、初学者の自分としてはかなり勉強になったと感じた。
願わくば、もっと用語の定義や文の意図が明確になるよう整理してあれば、もっと楽に読めるのに。。

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